早期胃癌検診協会 吉田 諭史 先生 司会 神奈川県労働衛生福祉協会 本田 今朝夫
新・胃X線撮影法による画質の安定化に伴い,胃がんX線検診成績は向上した. 今後,画質評価に関する取り組みが全国的に展開されれば,より一層の精度向上が期待できるように思う. 一方で,検診精度には読影精度が深く関与していることから,読影診断の分野においても新たな取り組みが求められている. 現在の胃がんX線検診では,発見率をはじめ陽性反応的中率や同部位指摘率を読影精度の指標とする集計報告がなされている. ここには,要精検率や精検受診率も含まれており,これらの集計結果は検診事業全体の管理指標と言えよう. しかし,これらの指標には,検診の全過程を集約した結果が表現されるので,読影精度の直接的な指標とはなりにくい. すなわち,画像診断としてのX線検査の特徴や有意性は表現されていないのである. そこで,私どもはX線検診の精度向上を目的とする読影判定指標の構築を試みている.すなわち,画像診断の立場から, 病変の質を判定する胃X線所見分類(案)である.本分類では,第5群を胃癌,第1群を正(健)常とする5つのカテゴリーに区分し判定する. 原案では,胃癌を否定できない所見群以外にも腺腫を第3群に含むこととし,胃病変の組織学的判定と整合性を図っている. この分類に従って判定すれば,疑いや確信(診)の程度について重みづけをもって表現でき,臨床的な取り扱い方を決定する際の 指標になると考えたのである.ここには,判定者の思考過程が表現されるので,読影精度の指標ともなる.当然, 胃癌が発見された場合には画像の質とX線診断の両面から診断精度の分析を行うことが出来る. 実際には,2006年より本分類を用いた読影判定を行っている.要精検となる場合の殆どが第3群に含まれており,第4群や第5群に 分類されることは稀である.これは,微細な所見を呈する胃癌,すなわち早期癌を標的とする検査・診断を志向していることの あらわれであろう.また,判定者の思考過程の一部が表記されることで,どのような所見をもって,どの程度に疑っているのか明確になった. また,精度の高い画像とは,どのような画像なのかを検診従事者間で共有することが出来るようになり,X線所見の見方や考え方について, 同じ尺度を基盤に検討することが可能となった. 問題は,診断の尺度が,判定者それぞれにおいて異なっていることである.どのような所見を,どの群に分別するのかについての検討もはじまった. 所見の捉え方や判定理論には個人差があるので,読影判定の結果の違いがあらわれることは当然のこととも考えられるが, 胃がん検診における判定結果のばらつきは精度向上の妨げともなる.やはり,胃がんX線検診の精度評価には,あくまでも 基準となる指標や尺度が求められているのである. そこで今回は,客観的な胃X線所見分類と読影基準を構築に必要と思われる事柄について述べたいと考えている.
東京都済生会中央病院 放射線科担当部長 金田 智 先生 司会 鳥取大学医学部保健学科病態検査学講座 教授 広岡 保明
1.消化管疾患における超音波検査の位置付け 超音波検査でわかる疾患は,深い潰瘍,進行癌,粘膜下腫瘍など壁の肥厚や腫瘤を形成するものである. 平面型の早期癌はわからないし,また進行癌であっても部位によっては描出困難である.したがって癌検診や人間ドック のスクリーニングなどには使えない.急性腹症ではX線検査や内視鏡は禁忌であり,CTや超音波検査が施行される. 超音波検査は動的な観察が可能でありまた分解能も高いことから,CTより有力である場合がしばしばある. 2.消化管超音波画像の見方 超音波画像はマクロ断面像に対応している.正常消化管壁は5層構造となっており,内腔側から第3層の高エコーである 粘膜下層,第4層の低エコーの固有筋層が重要である.層構造の変化を読み取り,鑑別診断をおこなう. 3.胃・十二指腸の超音波検査 ルーチン検査としては進行胃癌,胃粘膜下腫瘍,胃潰瘍などが診断可能である.緊急疾患としては十二指腸潰瘍穿孔の 診断に有力である.十二指腸の壁肥厚と壁の欠損に一致したガス像を確認する.腹腔内遊離ガスは左下側臥位として肝表面と 腹壁の間にため,巨大なコメット様エコーとして描出する. 4.小腸・大腸疾患の超音波検査 ルーチン検査としては,大腸癌や小腸リンパ腫,クローン病などが診断できる.緊急疾患としては,大腸憩室炎,虫垂炎, イレウスなどが診断できる.小腸アニサキス症では高周波数プローブを用いることによって,虫体そのものを描出できることがある. 5.まとめ 消化管の超音波検査は容易ではないが,努力すればそれなりに到達できる技術である.腹部超音波検査に携わるならば, 必須の領域と考えて勉強していただきたい.なお超音波診断の基本はマクロ病理学と臨床所見であり,X線検査や内視鏡と異なるものではない.