日中の日差しは厳しく残暑というよりも真夏ともいえる9 月例会(2 日)の日,特別講演に東京都立駒込病院消化器内科医長の加藤久人先生をお招きし,『表在型食道癌の描出と読影法』をテーマに講演をいただきました.先生は,北国(青森県)のご出身で"暑さにはからっきし弱い"という事でしたが,その暑さを吹き飛ばす熱のこもったお話しと"食道でここまで読影できるのか"と驚くほど美しいX 線写真を供覧されました.
先生のお話しは,食道X 線検査と,0‐ I から0‐ III までの多くの表在型食道癌症例を供覧され,内視鏡写真・X 線写真・レントゲノグラム・切除標本・ルーペ像について特徴的な所見をとても解かりやすく教えていただきました.
それでは,早速今回の講演内容を要約させていただきます.
最初に,駒込病院の5 年生存率についてのお話しで,やはり進行癌(mp 以深)の生存率は50%を超えることはなく予後は非常に悪い.しかし,m ・sm の表在癌を発見し診断することにより食道癌といえども予後は良好であり,特にm 癌については予後が期待できるということでした.
次に精密食道X 線検査は,『必要な所見が出ている写真が一番いい写真である』と所見が出ることが第一であると強調されました.これは食道に限らずX 線検査の全般にいえることだと思います.
どんな所見を描出すれば良いか,
- 陥凹所見(陰影斑,かすかな陥凹所見…中伸展像
- 隆起所見(高さと大きさ)…強伸展像
- 壁の変形所見(伸展障害と厚さの異常):sm 癌の指標…強伸展像
- 粘膜ひだの異常所見(粘膜層の伸展障害と厚さの異常)…弱伸展像
IIc における陥凹の深さは0.5mm 程度です.
さらに深達度が浅いm1 のIIc になると,陥凹の深さは0.1mm 程度となり,このぐらいの陥凹所見のことを陰影斑と呼んでいるそうです.
これは胃でいうIIc のバリウムが溜まって見える明瞭な陥凹所見ではなく,もっと微細な変化で「周囲粘膜との表面の状況が違う」あるいは「バリウムの付着が何となく違う」といった表現がされ,壁の伸展程度によっては描出されないことも有り得ます.
IIa の隆起の高さは1mm までとし,この1mm の所見をX 線写真で描出しなければいい写真ではないということになります.また粘膜内癌に関しては,隆起所見と陥凹所見だけで診断するには不十分で,粘膜ひだの異常所見も必要で,ひだの切れている所を探すことが読影のポイントです.
次に,1 〜4 の所見をX 線検査で的確に描出するには,それぞれの所見に適した壁の伸展度があると述べられました.陥凹所見(陰影斑)は,ひだが何となく出ているぐらいの中伸展像の方が描出されやすく,逆に隆起所見(顆粒)の場合はひだがとんでしまうぐらいの強伸展像の方が所見として描出されやすいそうです.壁の変形所見については,強伸展像にしても残ってくるような所見だけが壁の変形所見として考えた方がよく,弱伸展・中伸展像では壁の変形所見として紛らわしく写ることがありsm 癌と深く診断する可能性があるので注意が必要です.胃と同様,空気多量の写真で壁の変形を読影することがポイントです.
次 に精密検査のお話しでは,以前は150%のバリウムを1000ml 位使用して検査に1 時間半位かかったそうですが,最近では230%の高濃度バリウムを使用し量は250ml 前後で検査していると述べられました.
精密検査の前処置で一番問題になるのが粘液除去と分泌抑制です.その前処置から経管法による撮影手順については,次の通りです.
- プロナーゼ水溶液を検査10 分前に飲んでもらう.(単に飲むのではなく5 分ぐらい時間をかけてちびちびと飲むと効果が出やすい)
- 検査5 分前,ブスコパン1 〜2A を筋注(分泌抑制にも効果あり)
- プロナーゼ飲用から10 分後,経鼻胃管挿入(チューブ先端は胃角対側大彎)
- 溶かした粘液を洗浄するため,微温湯100〜200ml を飲用させる.その後,胃の中の水を吸引する
- 経鼻胃管は,病変の最低3cm ぐらい口側にチューブの先端を置き,撮影に入る食 道精密検査はおおまかに経口法と経管法の2 種類があり, その特徴について表1 に示します.
経管法の場合は1 回毎のバリウム量が少ないため,高濃度バリウムを使用し何回にも分けて造影しなくてはなりません.何回も分けて造影することによりシャッターチャンスが増え,撮影枚数が増えるので精密検査にはよいと述べられました.
しかしこの経管法は1 回のバリウム量が少ないため,付着ムラを起こしやすいという欠点があります.付着ムラを防ぐ方法として,1 回1 回の造影毎にいったん食道にある空気を全部抜いてしまいます.そこでバリウムを少し(3 〜7ml )入れてそのバリウムを空気でゆっくり押していくと膨らんだ二重造影像となり付着ムラを防ぎます.また,その膨らんだ像から空気を少し抜いてやると中伸展像,もっと抜いてやると弱伸展像と空気量を変化させることにより,壁の伸展度の調節が容易になります.もし機会があれば会員の方もチャレンジしてみてください.
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以 上,加藤先生の講演の中で特に印象に感じたお話を簡単ですが要約させて頂きました.今回の講演で加藤先生の撮影された写真を拝見し,ふと我に返ると精密検査で狙ったきれいな写真でも微細な変化でしか描出されないm 癌が,私の勤務している施設で発見できるのかと考えさせられました.しかしいくら健診施設とはいえ,発見しようと思う意気込みがなければ発見できる病変も見逃してしまうことになります.その気持ちを忘れずに明日からの業務に取り組んでいきたいと思います.
最後ですが,今回は当研究会に日頃経験することの少ない症例や貴重なお話しを長時間にわたって賜わり本当に有難うございました.今後ともよろしくご指導の程お願い申し上げます.